イタリアの新刊 12月その二

 恒例の、妹とふたりでの二日がかりのおせち作りはなんとか終わった。最盛期の三分の二ほどの品数におさえたので一日目は早めに切り上げてのんびり。二日目の今日、煮物類に思った以上に時間をとり、お重につめたら、もう夜の七時近くだった。伊達巻きが生っぽかったり、のしどりが焦げかけたり、今年もいろいろ課題あり。

 しかし、こうも寒くない大晦日だと、作ったものを冷蔵庫にしまわないと腐ってしまいそう。去年までは玄関など家のはしっこに置いておけば大丈夫だったのだが。今後おせちというものを見直さなくてはならない日がやってくるのか。

 今年最後の新刊情報。

 

 

Gobbo Mariacristina, Linda Chittaro e la Galleria dello Zodiaco(リンダ・キッタロとガッレリーア・デッロ・ゾディアコ), Bulzoni, 1 ottobre 2023

少し前の刊行だけどおもしろそうな本。

1942年11月ローマにオープンしたガッレリーア・デッロ・ゾディアコ という画廊と、その開設者リンダ・キッタロ (1912-1987)という女性についての初めての広汎な研究書。キッタロは美術商であり、歌手、翻訳家、舞台美術家、衣装デザイナーであった人物。50年代、60年代ローマの文化サークルの推進役だったそう。ゼんぜん知らない人物、画廊だけれど、Galleria dello zodiacoでググってみると、デ・キリコやサヴィニオの作品が展示されていたという情報が見つかる。

https://bulzoni.it/it/catalogo/linda-chittaro-e-la-galleria-dello-zodiaco.html

 

Adriano Sofri, C'era la guerra in Cecenia(かつてチェチェンで戦争があった), Sellerio, 24 ottobre 2023

著者のアドリアーノ・ソフリという人のことをなんと説明するのが適切なのかわからないが、1942年生まれのジャーナリストであり、活動家であり、1972年に起きた警察官の殺害事件の黒幕として告発されたこともある知識人、と言えばよいか。この事件の際には、友人のカルロ・ギンズブルグが裁判記録を読み、『裁判官と歴史家』(邦訳は筑摩書房から)を書いた。

本書はそのソフリが20年以上も前に、紛争の最中のチェチェンに取材で訪れたときの日記をまとめたもの。関係者に危険が及ぶことへの懸念から公開を控えてきたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により、公開を決断。

Monica Barni e Andrea Villarini (A cura di ), Intorno al senso(意味をめぐって), Quodlibet, 22 novembre. 2023

副題「言語哲学言語学、教育的言語学について」。

言語学者マッシモ・ヴェドヴェッリの教え子らが、師にささげる記念論文集。ヴェドヴェッリは、外国人のためのイタリア語試験CILSの創設者。また、言語教育ならぬ「教育的言語学linguistica educativa」の提唱者とのこと。

Massimo Arcangeli, Il generale ha scritto anche cose giuste(大将は正しいことも書いた), Bollati Boringhieri, 28 novembre 2023

副題は「常識という偽の真実」。

知らなかったのだが、2023年8月にイタリア軍の大将Roberto Vannacciという人物が自費出版したIl mondo al contrarioという本が、一時イタリアでだいぶ話題になっていたそう。同性愛、人種、エコロジー、家族についての持論を展開したもので物議を醸した。本書は、Il mondo al contrarioのテクストを丁寧に分析し、Vannacciの思想の持つ危険性を明確に示そうとするものだそう。

Lorenzo Tommasini, Educazione e utopia(教育とユートピア) , Quodlibeto, 10 gennaio 2024

副題「学校、大学の教員としてのフランコ・フォルティーニ」。

詩人、翻訳家、文芸評論家であったフランコ・フォルティーニの教育者としての側面に光をあてた著作。フォルティーニには、60年代から80年代にかけて、学校や大学で教員をしていた。この時期は、作家の創作活動がもっとも活発だった時期にも重なる。シエナ大学で文芸批評史も教えていたそう。シエナ大学といえばタブッキも教えていた。

PDF版を無料でダウンロードできる。

 

Alice Iacobone, Per crescita di buio(闇の広がりのために), Quodlibet, 10 gennaio 2024

副題「ジュゼッペ・ペノーネの美学と詩学」。

アルテ・ポーヴェラの代表的作家の一人、ジュゼッペ・ペノーネの創作の変遷を分析する。発表の時期の離れた作品のあいだに関係を見出す。

著者はジェノヴァ大学の博士課程に在籍中。

 

«Vesper» No. 9 Autunno-inverno 2023

ヴェネツィア建築大学監修の建築・美術雑誌Vesperの第9号。特集テーマはL’avversario(敵)。

ロベルト・エスポジトの論考「敵」や隈研吾へのインタビュー記事「Digital Crafts. The Other Modernity」などを収録。

 

日本語からのイタリア語訳

Osamu Dazai, Lo squalificato Condividi, Feltrinelli, 2023, 14 novembre 2023

太宰治人間失格』の新訳。翻訳は Maria Cristina Gasperiniさん。『人間失格』については、去年Antonietta Pastoreさんの訳がMondadoriから出たばかりなのにまた新訳が刊行されるとは驚き。調べて見れば、『人間失格』のイタリア語訳はこれで三バージョン目。ちなみに、と調べてみると、『斜陽』は四人の翻訳家の翻訳が! 太宰治著作権が切れてるからか。翻訳家たちが競うように好きな作家の作品を訳しているようで、楽しい気持ちになる。