イタリアの新刊 2024年1月その一

 

 年末、ちょくちょく「無理しないで」という言葉でおひつじ座に優しくしてくれたしいたけ占いが、年明けからしょうしょう厳しめになった気がする。「『受動』や『受け身』には少し注意してみて」と…。どうしたらいいんだろう…。

 ともかく、1月上旬に気になったイタリアの新刊を能動的に、まとめてみた(1月刊行でないものも含む)。

 

 

Sebastiano Timpanaro, Ritratti di filologi(文献学者たちの肖像), Aragno, 1 dicembre 2023

20世紀イタリアの代表的な文献学者セバスティアーノ・ティンパナーロ(1923–2000)が、6人のイタリアの文献学者(Graziadio Ascoli, Giorgio Pasquali, Nicola Terzaghi, Scevola Mariotti, Franco Munari, Giuseppe Pacella)について書き、雑誌に発表した文章を収録。挙げられている文献学者の中で私が名前を知ってるのはGiorgio Pasqualiだけ(アガンベンの『書斎の自画像』に魅力的な表情の写真が出てきた)だが、気になる。


Michela Murgia, Dare la vita(生を与える), Rizzoli, 9 gennaio 2024

昨年亡くなったミケーラ・ムルジャの遺作。血縁を基本としない家族を実践してきたムルジャが、普通、自然、とみなが思い込んでいるものを問い直すため、最後の数週間に書き、私たちに遺した128ページの文章。

出版社による本書の紹介文に"altrə"という語を見つけて興奮した。ムルジャの葬式でのキアラ・ヴァレリオの弔辞を思い出したから。弔辞の最後、「トゥッテ(tutte,)、トウッティ(tutti)」に続き「トゥットゥ」という言葉が聞こえ、なんだろうと、と調べて判明。ムルジャの出身地サルデーニャの方言から、男女の区別なく表現する言葉としてムルジャが採用したもので、文字で表記する際には"tuttə"としているということを知ったのだった。ここでもaltrəと、"ə"がちゃんと表記されている。この本は読みたい。

ところで、著者紹介に「作品が25カ国以上で翻訳されている」とあるのがやはり気になる。邦訳は未だに一冊もありません。

 

 

Norberto Bobbio, Lezioni sulla guerra e sulla pace(戦争と平和についてのレッスン), Laterza, 12 gennaio 2024

2004年に亡くなった思想家ノルベルト・ボッビオの未刊のテクスト。キューバ危機の1964年、ボッビオは、大学の法哲学の講義を、戦争と平和をテーマにして行った。本書では、人類を一瞬で危機に陥れる武器の使用が可能な時代において、戦争を正当化することが不可能であることが論じられている。残念ながら、今、だいぶアクチュアリティのあるテーマ。

 

Licia Troisi, La luce delle stelle(星たちの光), Marsilio, 12 gennaio 2024

ファンタジーで大人気の著者の初めての推理小説だそう。天文台に一つの死体。手すりから落ちたのか、突き落とされたのか。電話はなく、車は動かず、最寄りの町まで車でも砂漠を超えて二時間かかる。そこにいるのはイタリア、南米、北米、イギリスのの大学院生、学者。彼らが問題を解く。

この作家のことぜんぜん知らなかったが、いろんな言語に翻訳されている。最近あるあるの「中国語、韓国語に翻訳されてるけど、邦訳なし」パターン。まずはイタリア語で読んでみるか。

 

Viola Di Grado, Marabbecca(マラッベッカ), La nave di Teseo, 12 gennaio 2024

国書刊行会『どこか、安心できる場所で』に作品が収録されているヴィオラ・ディ・グラードの新作。シチリアが舞台。クロチルデとイゴルの二人は自動車事故に遭う。クロチルデは怪我を負い、イゴルは意識不明に。クロチルデは、事故を起こした鳥類学専攻の大学生アンジェリカの訪問を受け、二人の間に不思議な関係が生まれる。イゴルが昏睡から目覚めると、二人のバランスは揺らぎ……。マラベッカというのは、シチリアの民話に登場する想像上の生き物だそう。


<日本語からのイタリア語訳>

Ryü Murakami, Audition, 1 dicembre 2023

村上龍『オーディション』のイタリア語訳。翻訳はまたもやGianluca Cociさん。

https://www.atmospherelibri.it/prodotto/audition/

 

Atsuhiro Yoshida, Buonanotte Tokyo, E/O, 10 gennaio 2024

吉田篤弘『おやすみ、東京』のイタリア語訳。吉田さんの本のイタリア語への翻訳は本作が初めてだと思う。いつもの装丁のよさをイタリアで維持するのは難しそうだな。翻訳は Costantino Pesさん。


<イタリア語からの邦訳>

パオロ・ジョルダーノ『タスマニア早川書房、2024年1月10日

2022年にEinaudiから刊行されたTasmaniaの邦訳。翻訳は飯田亮介さん。

昨年末、イタリアのラジオ番組にジョルダーノさんが登場して、本書について語っていた。デビュー作が『素数たちの孤独』で最新作が『タスマニア』。「なぜ数学から地理に?」という質問を受けて、「歳を取ると、とくに男性は、小説から評論に好みが変わる人が多いと思う。自分はその現象がだいぶ若くして起こった」という話をしていたのはおもしろかったが、本書自体については話からだけではよくわからなかった。原爆や環境問題が大きなテーマとなっているようで、広島や長崎という地名が出てくる。