イタリアの新刊 2024年3月その二

 選びに選んで、ひさしぶりにイタリアのオンライン書店に本をまとめて注文した。カード側の問題で注文の確定ができないというトラブルがあり、カード会社に電話してそのトラブルを解消し(危険を察知して買い物を停止したとのこと)、さらには在庫ありの表示をしていたが在庫がみつからないという本を先方が探して諦めるのに数日かかり(ねばってくれた)、けっきょく注文してから発送までだいぶ時間が経ったが、発送されてからはたった3日で到着。早い。

 キャンセルとなってしまったのはAragnoから出たRitratti di filologi。去年の12月に刊行された本なのに。人気で売り切れということもないだろうに。出版社に直接買えないかと連絡したが返事なし。ibs, Amazon, AbeBooksで購入できない場合、どうしたらいいのだろう。現地の知り合いに頼むしかないか。

 ところで届いた箱を開けたら、Claudia DurastantiのLa sranieraが二冊入っていたのに驚いた。なぜ? 注文履歴を見ればもちろんその本は二冊注文されているのだ。あれだけ円安を気にして厳選して注文したというのにさ。

 遅くなってしまったが3月下旬に気になったイタリアの本(3月より前の刊行のものも含む)。

 

Stefano Ciliberti, Quel vecchio rasoio ancora buono. Storie dal Medioevo per capire il presente(あの古いカミソリはまだ使える:現代を理解するための中世史), Dedalo, 16 febbraio 2024

現代と中世の共通点やつながりに注目し、「暗黒時代」という中世のイメージを払拭し、西洋の近代社会の土台をつくった時代として中世を示そうという歴史書。 現代の金融危機が13世紀のそれといかに似ているか、オッカムと、エンリコ・フェルミやAIをつなぐものとは?

著者の経歴がおもしろくて、物理学で博士をとり、2021年にノーベル賞を受賞したジョルジョ・パリージと協力したのち、数量ファイナンス(?)の分野でキャリアを積み、世界各国を旅して、科学にかんする本をたくさん出し、その後大学で中世史を学んだらしい。中世史家としてはこれがデビュー作か。

 

Cesare Segre, Diario civile(シヴィル・ダイアリー), Il Saggiatore, 15 marzo 2024

文献学者、記号学者、評論家のチェーザレ・セグレへのインタビュー集。コッリエーレ・デッラ・セーラ紙で1988年から25年にわたって行われたものを収録。ユダヤ人であったことから戦中はナチに追われ、解放による大きな安堵を得たという個人的な記憶から、教師、言語学者として考えてきたことなどセグレのさまざまな顔が見えるインタビュー。

編者のPaolo Di Stefanoさんはコッリエーレ・デッラ・セーラの文芸記者で、私が目にとめる記事はよくこの方の署名がついている。おそらくこの方がインタビュアーだったのだと思われる。


Alberto Capatti, Storia del panino italiano(パニーニの歴史), Slow Food, 27 marzo 2024.

副題「一口サイズの不滅の幸せ」。

パニーニなんていう素朴な食べ物の歴史について本を一冊書けるとは考えたこともなかったが、本書は、食文化の歴史家が、軽やかだけど的確な言葉でそのテーマに取り組んだものだそう。

 

 

Paolo Valoppi, Mio padre avrà la vita eterna ma mia madre non ci crede(父さんは永遠の命を持つはずだけど、母さんはそれを信じない), Feltrinelli, 5 Marzo 2024

奇妙なタイトルで、とても気になる小説。

8歳のパオロは、サッカーとポケモンマクドナルドのハンバーガーが好きな男の子。パオロの暮らしには奇妙な存在がともなっている。それはエホバ。パオロの父さんはエホバの証人なのだ。一方で母さんはフェミニズム関係の本を扱う書店をやったり、今は文学を教えたりと、父さんの神のことには一切の興味を示さない。どうしてこんなにも違う二人がいっしょに暮らせるのかということもパオロにとっては不思議。父さんを大好きなパオロは父さんの神を信じるが、しかし大きくなるにつれ、父さんのことは好きなのにその神を信じることができなくなってくる・・・。著者の小説デビュー作であり、自伝的小説だそう。

著者は、出版社Einaudiの編集者でもあり、先日ここで紹介したPaolo Repettiさんと同じく、Stile Liberoシリーズを担当してるそう。

 

Giovanni Doddoli, Volpe e cacciatori(狐と狩人), Polistampa, 22 marzo 2024

副題「15年の長い歴史」

いつもここで取り上げる本とは毛色が違うけど、気になった。

イタリアに生息する唯一のキツネのアカギツネ(vulpes vulpes)について、15年にわたる調査をまとめた本。生物学的な知識を提供するほか、さまざまな狩猟方法の分析を行い、この動物と人間の関わりについての理解を深める。狩人を対象とした本。

 

<日本語からイタリア語への翻訳>

Rin Usami, Il mio idolo in fiamme, E/O, 6 marzo 2024

宇佐見りん『推し、燃ゆ』のイタリア語訳。翻訳はGianluca Cociさん。タイトルを直訳すれば「火の中の私のアイドル」。うまい。

 

以上です。