イタリアの新刊 2024年3月その一

 ハナニラムスカリハナダイコン、ボケ、ユスラウメ。この半月のあいだに咲きはじめた花たち。はじめはあの花もこの花も、と心を弾ませていたけれど、じょじょに焦るような、おいてけぼりにされているような気分に。

 3月上旬に気になったイタリアの本たち(3月より前の刊行のものも含む)。

Silvia Cinelli, L'elisir dei sogni(夢の妙薬), Rizzoli, 6 febbraio 2024

副題「カンパリのサーガ」。

イタリアの有名なリキュール、カンパリ1862年にガスパーレ・カンパリがこのリキュールを作り出し、1867年にはヴィットリオ・エマヌエーレ2世のガッレリアにカッフェ・カンパリをオープン。作家や政治家、創刊されたばかりのコッリエーレ・デッラ・セーラの記者たちが集う場となった。ガスパーレの突然の死をうけ、事業を寡婦のレティツィア、そして息子のダヴィデとグイードが引き継ぐ。カンパリ一家の物語とミラノの歴史。

 

Valentina Furlanetto, Cento giorni che non torno(閉じ込められて百日),  Laterza, 1 marzo 2024

副題「精神障害、抵抗、自由の歴史」。

精神障害者を病院から解放したフランコ・バザーリア。本書は、バザーリアの人生を描くと同時に、バザーリアと同い年で、近くに暮らすローザという女性に光をあてる小説らしい。ローザは自動車事故により精神を病み、病院に閉じ込められる。大量の薬、電気療法、人権の不在。二人の人生がパラレルに描かれる。

今年はフランコ・バザーリアの生誕100周年。


Claudia Durastanti, Missitalia(ミッシタリア), La nave di Teseo, 5 marzo 2024

19世紀半ば、工業化する街に暮らすアマリア。20世紀半ば、若き人類学者のアーダ。そして21世紀半ば、新しい世界を求めて宇宙船に乗るA。イタリア南部バジリカータを拠点にして300年の時を超えてつながる三人の女性を描く小説。

時代のスケールはだいぶ違うけれど、上田岳弘さんの『私の恋人』を思い出した。今回いちばん気になった作品。注文した。


Giorgio Agamben, Il corpo della lingua(言語の身体), Einaudi, 12 marzo 2024

副題「Esperruquancluzelubelouzerirelu」。

またアガンベンの新刊。半年に一冊くらいのペースで新刊がでるので、春の花くらいに私を焦らせる。

本書は、ラブレー、そしてラブレーに影響を与えたと言われているイタリアの詩人フォレンゴらがえがいた巨人たちと、その身体よりも異常な言語について論じるもののよう。この二人にとって、言語とはもはや概念をしめす記号ではなく、見て、触れて、感じることのできる身体そのものである。

副題は『ガルガンチュアとパンタグリュエル』からの引用と思われる。

 


<イタリアの本の邦訳>

ピエル・パオロ・パゾリーニパゾリーニ詩集【増補新版】』(四方田犬彦訳、みすず書房、2024年3月1日)


今回は、めずらしく日本の本からのイタリア語訳の刊行が目にとまらなかった。