イタリアの新刊 12月その一

加藤典洋さんの『テクストから遠く離れて』を読みはじめ、この方文芸評論家という肩書きなのに、小説家の小説の読み方をする人だ! と興奮しながら第I章を読み終えて、第II章で村上春樹の『海辺のカフカ』を論じるところに至り、『海辺のカフカ』を読んだことがないので典洋さんを中断して村上春樹へ寄り道しようと思ったけれど、3年前からぼちぼちと村上春樹をデビュー作から順を追って読んでいくということをしていて『ノルウェイの森』までを読んだところなので、『海辺のカフカ』に行くにはあと『ダンス・ダンス・ダンス』『 国境の南、太陽の西』『ねじまき鳥クロニクル』『スプートニクの恋人』を読まなくてはならず、急ぎ近所のお気に入り古本屋さん「青いカバ」で『ダンス・ダンス・ダンス』を買ってきて読みはじめたら猛烈おもしろくて、しかしこのままだと典洋さんに戻るのはいつになるのだろう・・・という12月。

12月前半に気になったイタリアの新刊など。

 

 

Giuseppe Antonelli (a cura di), La vita delle parole, Mulino, 27 ottobre 2023.

副題は「歴史と社会のイタリア語辞典」。

約800ページの大著。第1部「言葉と歴史」、第2部「言葉と社会」に分かれる。第1部には昨年亡くなった言語学者Luca Serianniの論考「イタリア語の語彙」のほか、ラテン語起源の語、ギリシア語起源の語、フランス語起源の語など、外国語起源のイタリア語の語彙について、それぞれ異なる研究者による論考が収録される。第2部には専門用語や、家族だけて通じる語語(Lessico familiare!)や慣用句についての論考が収録。これは、すぐに読まなくても、家に置いておくべき一冊という気がする。

 

Adriana Cavarero, Donne che allattano cuccioli di lupo(狼の子に乳をやる女たち), Castelvecchi, 24 novembre 2023

副題「超母性のイコン」。

これまで母の身体は哲学の無関心にさらされてきた。本書は、母の身体の、輝かしく牧歌的な伝統的表象ではなく、その暗い側面を考察する。女性のみが持つ出産とピュシスの、そして妊娠とゾーエーの間の絡み合いから、「超ー母性」というものが浮かび上がる。

著者はヴェローナ大学哲学科の教授を経て、現在はHannah Arendt Center for Political Studiesの科学委員会の委員長を務める。ニューヨーク大学やカリフォルニア大学の客員教授を務めた経験も。

イタリアは、女性哲学者が日本に比べて断然多い、と思う。

 

Alessandro Barbano, La gogna(さらし台), Marsilio, 5 dicembre 2023

副題は「ホテルシャンパーニュ、正義の翳った夜」。

盗聴をテーマとしたノンフィクション。イタリア史上もっとも世間を騒がせた盗聴事件の分析を通じて、盗聴と民主主義の関係について迫るというもの。取り上げられているのは2019年5月に起きた「ホテルシャンパーニュの夜」という名で知られている事件で、ローマの新しい検事の任命に関して賄賂を受けた人物の会話が、ソフトウェア「トロイの木馬」によって盗聴されたそう。

 

Giulio Cavalli, I mangiafemmine(女喰い), Fantango, 14 novembre 2023

架空の国DFを舞台にした三部作の第三巻。

夫に、恋人に、元カレに女が殺されるという事件が伝染病のように流行する世界。大統領候補のValerio Corti は、女はどうせ死ぬのだから、とこの状況を無視しようとする。しかし世論は説明を求めるようになり……。女殺しの伝染病はほんとうに存在するのか。ディストピア小説

DFというのは、チリの作家ボラーニョが、作品内でメキシコシティのことをDistrito Federalの略でDFと呼ぶことから。

 

Anna Maria Matteucci, Nicola Matteucci, mio fratello, Mulino, 10 novembre 2023

副題「記憶、書簡、未発表原稿」
思想家であり、出版社Mulinoの創設者の一人でもあったNicola Mattucciについて、建築史家である妹のAnna Maria Matteucciが思い出や手紙などから語る回想録。

 

 

日本の本からのイタリア語訳は今月も古いものから新しいものまでいろいろありました。

Takase Junko, Le delizie della signorina Ashikawa, Marsilio, 14 novembre 2023

高瀬隼子さん『おいしいごはんが食べられますように』のイタリア語訳。
翻訳はAnna Specchioさん。

 

Katai Tayama, Il maestro di campagna, Marsilio, 15 dicembre 2023

田山花袋田舎教師』のイタリア語訳。

翻訳はPierantonio Zanottiさん。

 

Edogawa Ranpo, Il demone dell'isola solitaria, Atomosphere libri, 24 novembre 2023

江戸川乱歩『孤島の鬼』のイタリア語訳。

翻訳はDiego Cucinelliさん。