イタリアの新刊 10月その二

11月に入ってしまった……。しかし10月中に気になったイタリアの新刊本たちその二。 

 

以下それぞれ気になった点など。

 

カルミネ・アバーテ著『幸せな村(Un paese felice)』Mondadori, 2023/10/3

邦訳がぞくぞく刊行されているアバーテの最新作。

1970年代のイタリア南部カラブリア州の小さな村が舞台。この村で育ったリナは、製鉄所の建設プロジェクトによって村が消滅の危機にあることを知り、阻止しようと行動をおこす。バーリの大学で知り合ったロレンツォの力を借り、村人たちを説得して抵抗運動を始め、イタリア大統領、首相、法王、政治家たち、そしてついにはパゾリーニまで手紙を書く。戦後の経済発展の中で繁栄という甘い言葉に屈服するイタリアが描かれながら、戦う若者たちの中に希望が感じられる作品だそう。

 

マッテオ・コッルーラ著『Luigi Pirandello-Leonardo Sciascia(ルイジ・ピランデッローレオナルド・シャーシャ)』Rubbettino, 2023/10/6

副題は「(不)可能な対話」。

ピランデッロとシャーシャ、両者の伝記を書いたことのある著者コッルーラが、二人の架空の対話を実現。シチリア生まれの二人だけれど、そうか、生年が半世紀も異なっていることに初めて気づいた。シャーシャ15歳の頃にピランデッロが亡くなっているようなので、生前には面識がないのか、それゆえ(不)可能な対話ということなのか。

 

フランチェスカ・アレーナ著『私もジョルジャになってたかも(Potevo essere Giorgia)』Rizzoli, 2023/10/10

タイトル中の「ジョルジャ」というのは、もちろんイタリアの首相、ジョルジャ・メローニのこと。主人公のエヴェリーナは、左寄りの人間であることを自認している。民主党に投票するし、人種差別には反対だし、LGBTQI+の人たちは応援してるし。でもある晩、友人たちと遊んでいるときに、周りからはジョルジャ・メローニと同じような人間と見られていることに気づいてショックを受ける。その瞬間からエヴェリーナは自己批判をするようになる。しかもジョルジャ・メローニを心の師として……。心の中で首相と対話することで、自分が自分のふるまいに目をつぶって、見たいと思う自分しか見ていないことに気がつく。

メローニ批判の言葉はあまた目にするが、このアプローチはおもしろいし、きっと鋭いのではないかと思う。

 

マックス・マリオラ著『愛の音(The sound of love)』Mondadori, 2023/10/10

日本にはいい料理本、いい食エッセイがたくさんあるのに、イタリアではこれぞ、というのが見つからないなぁといつも思う。イタリアの料理本は、どれも表紙に迫力ある笑顔の料理家が写っていて、気圧される。中をよく見ればよいレシピもあるのかもしれないが、開くにいたらない。今回見つけたこの料理本も例にもれず同じようは表紙ではあるのだけど、おいしい料理を作るための10の基本(質のよい食材、料理は買い物から始まる、旬のものを、など)がまとめられていて、読み応えがありそうな雰囲気。著者は、レストランでの勤務経験を経て、テレビの料理番組で活躍していたそう。そして今はユーチューバー。

 

ダニエル・デル・ジューディチェ著『語ることについて(Del narrare)』Einaudi, 2023/10/10

2021年に亡くなった作家ジューディチェが生前残した、作家論、小説論に関する文章を集めたエッセイ集。前半はコンラッドプリーモ・レーヴィカルヴィーノ、スヴェーヴォら個別の作家についての文章、後半は語るという行為についての文章がまとめられている。

 

ビアンカ・ピッツォルノ著『エメラルド色の人たち、カエルの人たちに(A chi smeraldi e a chi rane)』Bompiani, 2023/10/11

副題「私の(あまりに多すぎる)動物たちの自伝」。タイトルも副題も奇妙。

『ミシンの見る夢』などの邦訳がある小説家の作品で、本作は自伝。これまでに縁のあったたくさんの動物たちとの思い出を通じて語られるらしい。ネコ、カメ、ヒキガエル、ネズミ、オウム、そしてワニまで登場するみたい。

 

ヴェロニカ・ガッレッタ著『ペッレオッサ(Pelleossa)』Minimum Fax, 2023/10/17

2022年にNina sull'argineがストレーガ賞の最終候補になった著者の最新作。

1943年シチリアが舞台。7歳のパオリーノは、遊び仲間に勇気のあるところを見せるため、人里離れた丘に暮らす老人フィリップの庭に一人忍び込む。そこでパオリーノとフィリップは知り合い、フィリップは、戦後の難しい時代を生きる少年の助言者となり、生き延びる手助けをする。イタリア語とシチリア語の混じった文章で書かれているそう。しかしこのタイトルはどういう意味なんだろう? pelle=皮、ossa=骨?

 

ヴェロニカ・ライモ著『人生は短い、ほか(La vita è breve, eccetera)』Einaudi, 2023/10/17

こちらも2022年ストレーガ賞に作品が残った著者の最新作。変なタイトルの本だな、と気になっていたが、本の売り上げランキングで最近上位にある。

地震が起き、目覚めると、女は男とベッドにいることに気づく。しかしそこは彼女のベッドではなく、男は彼女の恋人でもない。というような話から始まる11の短編集。暗いものもコミカルなものもあるが、共通するのは、女たち、女たちの関係に対する自由なまなざし、だそう。

 

マルタ・バローネ著『幼い芸術家の肖像(Ritratto dell'artista da piccolo)』UTET, 2023/10/24

そしてこちらも2020年のストレーガ賞の候補になった著者の最新作。作家になる前の作家たちはどんなふうだったのか。アンナ・マリア・オルテーゼが幼少期を過ごしたリビアから、インゲボルク・バッハマンが生まれ、のちに激しい爆撃を受けたオーストリアのクラーゲンフルトまで場所を移りながら、11人の作家たちの幼少期を、思い出やエピソードから語っていく。タイトルは、ジョイスの「若い芸術家の肖像」からだと思われる。

 

パオロ・コニェッティ著『下の谷の方で(Giú nella valle)』Einaudi, 2023/10/24

こちらも邦訳がぞくぞく刊行されているコニェッティの新刊。

山に暮らす兄弟、ルイージアルフレードの物語。父は、子が生まれるたびに木を植えた。兄ルイージにはカラマツを、弟アルフレードにはモミを。その後ルイージは37年間山から離れずに暮らした。弟のアルフレードは家から逃れてカナダで生活してきたが、父の死後、故郷の山に戻ってくる。大きく異なる二人だが、共通点が二つ。一つはアルコール。二人とも際限なく飲み続けることができる。もう一つは二本の木が植えてあるこの家。

 

ウンベルト・エーコ『若き小説家の告白(Confessioni di un giovane romanziere)』la nave di teseo, 2023/10/31

なんとエーコの新刊。先に米国で刊行された本のイタリア語への翻訳だそう。2008年、米国エモリ―大学で行われたリチャード・エルマン・レクチャーズの講義録。

薔薇の名前』で小説家デビューしたときのエーコは48歳。そのときを0歳とすれば、講義を行なった2008年には28歳。つまり小説家としてはたった28歳、とても若い小説家なんです。とこんな話から始まった講義。邦訳はすでに2017年に出ている。イタリアの方が6年も遅れるなんて。