Radio 3, L'isola deserta に社会学者のフランチェスカ・コインさん出演

 Radio 3の番組、L'isola deserta(無人島)の9月30日の放送回に、社会学者のFrancesca Coinさんが登場した。意外にも、この番組に社会学者が登場するのは初めてとのこと。言われてみれば、イタリアの社会学者、Coinさん以外知らない。

   

 Coinさんは今年の8月にEinaudiからLe grandi dimissioniという本を出していて、タイトルの奇妙さが気になって、ツイートで紹介していた。

 

 本はまだ読んでいなが、ラジオを聴いてみた。

 コロナ禍のイタリアでは、特に医療の現場を中心に、一度に大勢の人が辞職するという現象が認められたそう。Coinさんはこの現象に目をとめ、調査を行い、すると理由は大きく二つあった。一つは危険な現場から離れたいから、もう一つは時間の使い方を見直したいから。本書は、後者、仕事と時間の関係を中心テーマにして書いたものだそう。

 あとで調べてみると、Le grande dimissioniという語は英語のgreat resignationの訳語で、アメリカでも2021年ごろに注目された現象らしい。日本でも、「大量退職」「大量離職」などの語の含まれる記事がちらほら見つかるが、「あなたの部下が大量に退職したらどうするか」という求人サイトの記事や、アメリカの新聞記事の紹介にとどまり、現象自体を深く掘り下げたものや、日本で同様の現象が起きたという報告はみつからない。

 ラジオを聴きながら一つの疑問が浮かんだが、番組の最後まで答えは与えられなかった。

 それは、辞めてどうやって食べていくのだろうか、ということ。私だって、仕事しないで生きていけるなら仕事辞めるけどなぁ……。週休三日の仕事があれば転職するけどなぁ……。辞めた人たちがどうしているのか具体的なところは番組ではわからなった。Coinさんの関心は、資本主義と環境問題との関係や、ベーシックインカム的な制度にも及んでいるようで、斎藤幸平さんと問題意識が近いのではないかと推測。

 ラジオのパーソナリティーのChiaraが「10年、15年前までは、時間があるのがセクシーだったけど、今は忙しいのがセクシーになった。これはなぜか?」という質問をしたのがおもしろかった。たしかに、忙しいのがかっこいいと思ってる人って日本にもいる。スケジュールをやたらと確認したり、腕時計をちらちら見たり、せかせか歩いたり。でも私には、いつも会社で昼寝してる山岡さん(美味しんぼ)みたいな人の方がセクシーだけどなー。

 

  ところでCoinさんのしゃべりを聴いていて、この方はフェミニズムに対して適切な意識を抱いている方だ、とはっきりわかった瞬間が二度あった。一度目は最初の挨拶でbuongiorno a tutte e tuttiと言ったとき。二度目は、会話の途中で tutte, tutti e tutt*と言ったとき。ここには「うふっ」とうれしくなった。最後のtutt*は、カタカナにすると「トゥットゥ」に聞こえる語で、今年の8月に亡くなった作家・活動家のMichela Murgiaへの弔辞でChiaraが最後に言ったので、私は覚えた。MurgiaとChiaraの仲の良さを知った上でCoinさんは使ったのかしら、と思いきや、CoinさんじしんもMurgiaの追悼記事を書いていた。使う語に人が表れる。