イタリアの新刊 2024年2月その一

 2月9日に福寿草が咲いた。

 毎年この季節になると、花が咲いた日を手帳に書きとめはじめるのだが、じょじょに数週間分まとめて、やがて数ヶ月分まとめてとなり、調子がいいときは10月まで、悪いときなどは7月までで記録が終了。今年はいつまで続くだろう。

 2月上旬に気になったイタリアの新刊(2月より前の刊行のものも含む)。

 

 

Giorgia Sallusti, A Tokyo con Murakami(村上春樹と東京を), Perrone, 26 gennaio 2024

マルセル・プルーストとパリを』『ジェーン・オースターとイギリスを』『グリム兄弟とドイツを』などの「作家と街・国」シリーズの東京版。村上春樹の本をポケットに東京の街を歩く。レストランでオムレツを食べ、神宮球場でスワローズの試合を観戦戦し……。

著者のSallustiさんは、ローマのBookishという独立系書店の店員さん。日本人作家の本をたくさん置いている本屋さんみたい。

Giulia Tellini, Dentro a' dilicati petti(感じ易い胸の中に), Marsilio, 26 gennaio 2024

副題「デカメロンにおける女性の姿」。

デカメロン』の中には、賢く、勇敢で、決断力も独立心もある女性が描かれる一方で、けちでみえっぱりな女性も登場する。ボッカッチョは、さまざまな女性を描き、ポスト・ペストの新しい世界の構築を、語り手たち(7割が女性!)にゆだねた。本書は、デカメロンで語られるお話に登場する、バルトロメア、ジレッタ、ギスモンダ、フィリッパ、グリセルダの五人を取り上げ、彼女たちがどのように描かれたかを分析する。
デカメロンと女性というテーマ、考えたことがなかったけれど、思い出すと女性がいきいきと描かれたいたような記憶がある。
タイトルはデカメロンの序詞から。


Giulio Bollati, Memorie minime(もっとも小さな記憶たち), Bollati Boringhieri, 26 gennaio 2024

出版社Bollati Boringhieri の創設者(正確に言うと、Boringhieriという出版社を買収し、Bollati Boringhieriという出版社を立ち上げた)Giulio Bollatiが生前に残した八つの短編を収録した作品集。2001年に刊行されたものの再刊。Bollatiは、カルヴィーノらと同時期にEinaudiで編集の仕事を始めたらしい。序文はクラウディオ・マグリス。


Maurizio Ferraris, Imparare a vivere(生きることを学ぶ), Laterza, 30 gennaio 2024

2022年12月21日にコロナ陽性、27日にやっと陰性になったと思ったら、マテーラの海岸で左腕を骨折。こんな話から始まる著名哲学者の生についてのエッセイ。確固としたものが一瞬で崩れるという経験から、われわれは生きることをまだ学んでいないのではと自問する。

vivere(生きる), sopravvivere(生き延びる), previvere(あらかじめ生きる?), convivere(ともに生きる)がキーワード。

「生きる」「生き延びる」の違いについては、これまでにもいろいろな人がいろいろに語ってきたが、私の中にもっとも印象に残っているのは、穂村弘『短歌の友人』の中の次の言葉。「我々の言葉が<リアル>であるための第一義的な条件としては、『生き延びる』ことを忘れて「生きる」、という絶対的な矛盾を引き受けることが要求されるはずである。」

Tommaso Giartosio, Autobiogrammatica(自伝の文法), Minimum Fax, 2 febbraio 2024

言葉と生のあいだのつながりを見つけようとするエッセイのようなのだけれど、どんな本なのかはっきりとわからないし、説明が難しそうな本。でも気になる。

エマヌエーレ・トレヴィによって、2024年のストレーガ賞に推薦されたそう。

 

Ginevra Lamberti, Il pozzo vale più del tempo(井戸は時よりも価値がある)Marsilio, 13 febbraio 2024

これもまただいぶややこしそうな小説だが気になる。

8歳のダリア。ある事件ののち、長い入院を経て家に戻るが、家は空っぽで、おそらくみな死んでしまった。ダリアはフィオランナという老女に引き取られ、二つのことを教わる。人類が築いた世界はまだ存在はしているが山中に隠されていること、人の体の埋め方。ダリアはポッツィ村へ移り、そこで屠殺人ビアージョを手伝い、奇妙な婦人オルソーラの付き添いをする。世界の気温は50度まで上がり、植物は枯れ、動物は死ぬ。人が人を喰う。

インスタでキアラ・ヴァレリオが、コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』がアゴタ・クリストフの3部作と出会ったらどうなるか、という言葉で本書を紹介している。

こちらもストレーガ賞に推薦されている。

 

<日本語からのイタリア語訳>

Yū Miri, La casa del gatto, Atmosphere Libri, 26 gennaio 2024

柳美里『ねこのおうち』のイタリア語訳。翻訳はLaura Solimandoさん。


Taichi Yamada, Estranei, Nord, 6 febbraio 2024

山田太一異人たちとの夏』のイタリア語訳。翻訳は A. Martinさん。これまでのお仕事に日本語作品の翻訳はなさそうなので、英語からの重訳か。