イタリアの新刊 2024年1月その二

イタリアの出版社モンダドーリのウェブサイトに、ガルシア=マルケスの未刊作品が3月刊行予定との情報を見つけた。イタリア語のタイトルは"Ci vediamo in agosto(八月に会いましょう)"というもの。調べてみると原題は"En agosto nos vemos"で、やはり3月刊行予定(イタリア語とスペイン語で「八月に」の位置が異なるのがおもしろい)。邦訳はいつでるか。

1月後半に気になったイタリアの新刊。

 

Edith Bruck, I frutti della memoria(記憶の果実), La nave di Teseo, 23 gennaio 2024

副題「学校に残す私の証言」。

ハンガリーに生まれたユダヤ人の著者は、第二次世界大戦中に幼くして強制収容所に送られた。生還し、イタリアで作家となり、これまで多くの学校を訪問してホロコーストについての証言を行ってきた。本書では、著者の話を聞いた生徒たちが送ってきた手紙を紹介し、著者がそれらに答える。未来に証言を伝える試み。ちなみに、強制収容所の日々、終戦、世界各国の放浪、イタリアへの移住の経緯については、2021年にヤング部門でストレーガ賞を受賞したIl pane perduto(失われたパン)に描かれていた。読んで、パワーに満ちた人だと思った。

 

Nicola Lecca, Scrittori al veleno(毒入り作家), Mondadori, 23 gennaio 2024

副題「チンクエ・テッレのミステリー」。

サルデーニャの作家Antonina Pistuddiを主人公としたミステリー。かつてイタリアの重要な文学賞を受賞しながらも、現在は地味に創作活動を続けている彼女が、チンクエ・テッレにある国際文学センターに若い作家たちと招待され、滞在中に求めに応じて作ったキノコのリゾットを食べた四人の作家が死んでしまった。彼女が容疑者となったが、ほんとうに彼女が犯人なのか。出版界の様子が皮肉に絵が描かれた作品だそう。

著者自身もサルデーニャ出身で、これまでの作品は、ドイツ語やオランダ語などに翻訳されている。

 

Ilaria Rossetti, La fabbrica delle ragazze(女の子たちの工場), Bompiani, 24 gennaio 2024

第一次世界大戦中、イタリアの軍需製品工場では多くの若い女性が働いていた。そのうちの一つSutter & Thévenoは、スイス資本の会社で、ロンバルディア州の村に工場を建設し、多数の女性労働者を集めた。1918年6月7日に爆発事故が起こり、59人が亡くなった。この実際にあった事件を背景とした物語。Emiliaは事故が起きる日の朝、親元を離れてSutter & Thévenでの勤務を始め…。事故が起きても工場は止まらない。

事件当時ミラノにいたヘミングウェイが短編集でこの事件を取り上げたそう。しかし以降ほとんど忘れられていたこの事件について、著者は証言を集め、そして小説に。 著者はトリノの Scuola Holdenで教鞭をとっているそう。


Giorgio Scianna , Senza dirlo a nessuno(誰にも言わずに), Einaudi, 23 gennaio 2024

父親と二人でロンドンに暮らすManish16歳。特に不満のない暮らしを送っているはずだが、ある夏の朝、誰にも何も言わず家を出て飛行機に乗りローマへ行く。ローマの公園で警察につかまるも、黙秘を続け、ジェノヴァに暮らす母親に連絡が行く。母が新しい夫とその間の子どもを置いて、謎めいた長男のもとに急ぐと、Manishは理由もなくすぐに釈放される。母は、ジェノヴァの元の暮らしに戻ることを選ばず、ローマの公園でほんとうは何が起きたのか、Manishの抱える秘密は何かを突き止めようと決断する。

 

Enrico De Angelis, Enrico Deregibus (Curatore), Luigi Tenco, Lontano, lontano(遠くはなれて), Il Saggiatore, 23 gennaio 2024

1967年、サンレモ音楽祭の当日に28歳でピストル自殺をしたシンガーソングライタールイジ・テンコ。彼の手紙、日記、メモ、インタビューなど、未公開資料をもとに作られた彼の「自伝」。

ルイジ・テンコ、学生時代に名前をよく聞いたけど、若くして亡くなっていたということも、自殺までの経緯も知らなかった。

 

Frediano Sessi , Oltre Auschwitz(アウシュビッツを超えて), Marsilio, 23 gennaio 2024

副題「東欧、忘れられたホロコースト」。

ポーランドのベウジェツ、ソビボル、トレブリンカ、ヘウムノに設置された強制収容所について。労働ではなく絶滅を目的として設置されたこれらの収容所に送られた者たちが生還する可能性は非常に低く、ここで150万以上もの人が殺された。しかしながらこれらの収容所で起きたことについてはこれまで十分に語られてこなかった。記憶から消し去ろうとする政治的な意志が働いているのだろうか? 本書は、これまで公開されてこなかった資料を豊富に使用し、この空虚を埋めようとする。

 

 

<日本語からイタリア語への翻訳>

Banana Yoshimoto, Che significa diventare adulti? , Feltrinelli, 12 gennaio 2024

吉本ばなな『おとなになるってどんなこと?』のイタリア語訳。翻訳はGala Maria Follacoさん。

 

Yukio Mishima, Stella meravigliosa, Feltrinelli,16 gennaio 2024

三島由紀夫『美しい星』のイタリア語訳。翻訳はLydia Origliaさん。


Mai Mochizuki, Il Caffè della Luna Piena, Mondadori, 23 gennaio 2024

望月麻衣『満月珈琲店の星詠み』のイタリア語訳。翻訳はGiuseppe Strippoliさん。

 

<イタリア語から日本語への翻訳>

マルコ・バルツァーノ『この村にとどまる』新潮社、2024年1月31日

原作は2018年にEinaudiから出たResto qui。2018年のストレーガ賞の最終候補作。作者も作品も、ぜんぜん知らなかった。著者はレオパルディ研究をしていたそう。詩集の刊行も。翻訳は関口英子さん。


以上。