イタリアの新刊 2024年2月その二

 ここで気になるイタリアの新刊をお知らせしているのは、日本語にまだ翻訳されていないイタリア語の本におもしろそうなのがあるのを見えるようにしたいからだが、もうひとつ目的があって、自分が気になる本をメモしておいて、あとでふりかえり、まとめて注文するためでもある。

 というのも、円安や配送料の値上がりによって、そうやすやすと外国から本を注文できなくなったからで、吟味してまとめて購入したい。そろそろ注文しようかなと、過去の自分の新刊案内を見ながら物色し、カートにだいぶたまった。でもあとで、「あれも注文すればよかった!」となったら悔しいので、もう少し寝かせる。

 2月後半に気になったイタリアの新刊書(刊行がそれより前のものも含む)。

 

Antonella Moscati, Patologie(病理学)Quodlibet, 21 febbraio 2024

ナポリ生まれの哲学者、アガンベンの教え子でもある哲学者モスカーティの回顧録。奇妙なタイトル。どんな病気でももしかしたら重病かもとおそれる医師の父、楽天的で元気な母、そして四人の姉妹という家庭の末の娘として育った著者。病気で死ぬかもしれないというおそれが幼少期の大事な記憶となっているそう。ナタリア・ギンズブルグの『家族の会話』を思わせる。2020年にフランス語版が先に出ていたということのよう。

 

Francesco Sabatini , Un italiano accogliente(あたたかなイタリア人), Il Mulino, 26 gennaio 2024

副題「クリスティアーナ・デ・サンティスとの対話」 。

イタリアの著名言語学者であり、アッカデミア・デッラ・クルスカの名誉会長であるフランチェスコサバティーニへのインタビュー集。インタビューアーは同じく言語学者ボローニャ大学教授クリスティアーナ・デ・サンティス。

サバティーニは、表紙に「DISC」と書いてある辞書Dizionario italiano Sabatini Colettiの編者。この本では、これまでの人生での大事な出会いなどがふりかえられるそう。

 

Marta Stella, Clandestine(非合法な女たち), Bompiani, 7 febbraio 2024

副題「女たちの小説」。

60年代の終わり、ミラノで中絶を行った女学生が主人公。当時のイタリアでは、中絶を禁止するファシズム法がまだ生きていた。カルラ・ロンツィなどの女性活動家たちが登場し、当時のフェミニズム運動が描かれる。

 

Valeria Parrella, Piccoli miracoli e altri tradimenti(小さな奇跡とその他の裏切り), Feltrinelli, 13 febbraio 2024

2003年に短篇でデビューし、カンピエッロ賞やエルサ・モランテ賞などを受賞した著者の久しぶりの短篇集。短編という形式に思い入れのある作家のよう。表紙の女性が満島ひかりさんみたいでとても魅力的。

 

Tea Ranno, Avevo un fuoco dentro(私の心の火), Mondadori, 20 febbraio 2024

作家テア・ランノの回顧録。45歳、病院で目覚めるところから始まる。若い頃から子宮内膜症を患っていたのだが、それが腸、肝臓、肺にまで影響し(そんなことがあるのか!)、瀕死の状態で緊急手術をしたところ。70年代のシチリアで生まれた著者は、家庭内で体にまつわることが話題になることがなく、口にできないことを日記に書きつけてきたことがやがて書くことへの喜びにつながった。


Chiara Valerio, Chi dice e chi tace(話す者と黙る者), Sellerio Editore Palermo, 20 febbraio 2024

キアラ・ヴァレリオの新刊。今回は小説。

作家本人の生地ラツィオ州の小さな村スカウリが舞台。70年代、この村に、ヴィットリアという名の女性が移住してくる。彼女は家を一軒購入し、そこには誰でも自由に出入りができて、彼女の寛大さにみなが惹かれていく。ある日、ヴィットリアが浴槽で死んでいるのが見つかる。村の住人たちは、無気力に事件を受け入れるが、しかし女性弁護士・レア・ルッソだけは違った。ヴィットリアに惹かれていた彼女は、調査を始め、すると後戻りすることのできない道を進むことに……。ミステリー仕立ての小説なのか、紹介文を読んでいてもわくわくする。

 

Paolo Nori, Una notte al Museo Russo(ある晩ロシア美術館で), Laterza, 27 febbraio 2024

ロシアを愛する著者が、ロシア美術館について語るエッセイ。一度社会に出て、海外赴任を経たあとイタリアに戻って大学でロシア文学を学び、以降翻訳家や文筆家として活動し、2021年ドストエフスキーの人生をもとにした小説でカンピエッロ賞の最終候補となった著者。最初にロシアへ行ったのは1991年で、以降、同国をなん度も訪れるが、エルミタージュ美術館行ったのは3度、それに対してロシア美術館に行ったのは、たしか23回。それほどにロシア美術館には惹かれるものがあり、展示室を歩いていると、歴史小説を読んでいるような気分になるそう。

先日本書の紹介イベントがローマであったそう。ロシア文学を愛する者にとっては今は苦しい時期であり、その苦しみが、戦争によるほんとうの苦しみに比べたらなんでもないということが苦しい、という話をしたら、イベント終了後に一人の男性が近づいてきて、「あなたの苦しみは私の苦しみです」とロシア語で話しかけられた、と著者のブログにあった。


 

 

<日本語からイタリア語への翻訳>

Otsuichi, Goth, Atmosphere Libri, 20 febbraio 2024

乙一GOTH リストカット事件』のイタリア語訳。翻訳はAndrea Filippiさん。

https://www.atmospherelibri.it/prodotto/goth/

 

 

Yamada Murasaki, Tenui bagliori,  Einaudi, 20 febbraio 2024

やまだ紫しんきらり』のイタリア語訳。翻訳はAlessandro Passarellaさん。

 以上。