甘く、とつぜん匂うのがキンモクセイである。
花の姿を見て、そろそろかな、と待ちかねる間はなく、とつぜん強いにおいがやってくる。それから花の存在に気づく。ジンチョウゲとは違う。こちらはピンク色のつぼみが膨らんでいく姿を見せて、香りへの期待を高めてくれる。
しかし昨年、初めてにおいより先に、キンモクセイの花に気づいた。駅に向かう道、住宅兼個人病院の外壁沿いに置かれた鉢植えに目をやると、オレンジ色の小さな花がついている。においは、ない。先に花の存在に気づいたのだ。わたしも小さきものに目を止める心の余裕を持てるようになったのだ、と感慨深かかった。
さて今年。待ち構えた。いつにもまして目を凝らして歩く。住宅軒個人病院の外の植木鉢はいつのまにかオリーブにかわっている。出勤の道すがら、散歩でぶらぶら、オレンジ色のつぶつぶはまだない、と確認しながら歩く。
仕事帰りの暗い道で、突然くぅーんと香る。暗いので花の姿は見えず。翌朝、いたるところにオレンジ色の小さな花が咲いていることに気づく。ここにも、あそこにも、あったのかと驚く。
今年はキンモクセイの勝ち。
それにしてもキンモクセイ、ちょっと多すぎやしないか、と思う。好きだからいいんだけど。